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雑記帳「感懐」

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いまどきの地方大学

 先日、母校である山口大学に用事があって足を運びました。私が卒業したのは 14年ほど前なのですが、その後、施設の拡張や改修などが順次行われ、私の出た校舎の内部は大手企業の最新の研究所のようにすばらしいものになっていました。全室パッケージエアコン装備、廊下は広く床はぴかぴかのタイル張り、室内は明るいグレーで木製の建具を採用、トイレも大きな窓から外の光がサンサンと差込み不潔さはまったくありません。外に出れば都市部の公園のように美しく整備されたキャンパス。「三里塚」とか「全共闘」など書かれた派手な立て看が並んでいて、昼休みになると大音量でアジ演説が行われていた汚いキャンパスから比べるとわずか 14年ですが隔世の感があります。

 キャンパスが美しくなるのはすばらしいことですが、理系の校舎の中はあまりに整然としすぎて前述の通り企業の研究所のようです。その中はオールシーズン空調され学生は研究活動に励む・・・たしかに研究効率は上がるでしょうし、法人化を目前にして有能な学生を集めるには施設の改修は必須なのでしょう。それは理解できます。でも、なにか私が考える大学生らしさとはちょっと違うような気がするのですよね。

 私の時代は大学は夏は暑く、冬は寒いものでした。特に夏の暑さは印象的で、外はやかましいほどセミが鳴き、研究室の窓は全開。確かに暑いんですよ。つらいんですよ。でも、窓を開け放つことによって感じる季節感は企業に入ってからは感じることのできないものでした。首にタオルをかけて汗をかきながらノートをまとめていると、ノートの腕を乗せていた部分の紙が汗でふやけていたり、キャンパスの中は学生が大勢いるはずなのに皆暑さを避けて図書館や学生会館のような冷房のある部屋に避難しているのか妙に静かだったり、暑い中にも時々は風が吹いて窓にかけられた色気も何も無い白いカーテンがそよそよとゆれて、なんとなくやる気の出ないけだるい昼下がり・・・。

 なんといっても暑さで研究効率が落ちるのは否めません。そんな時は同じ研究室の仲間と「暑いね」とか言いながらアイスクリームをかじったり、あるいは、それぞれ風通しの良い場所を見つけてお昼寝・・・。夕方になって涼しくなってからごそごそと研究を再開・・・。そりゃ作業効率は悪いでしょう。でも、大学は企業とは違うのだから、朝9時から夕方までしっかり仕事して・・・ってしなくても良いのではないかなと思うんですけどね。

 薬師丸ひろ子さんや中井貴一さんが出ていた「ダウンタウンヒーローズ」という映画がありました。昭和 23年の松山の旧制高校を舞台にした早坂暁原作の青春映画で「男はつらいよ」シリーズの山田洋次さんが監督をされたのものですが、当時の大学生の生活が詳細に映像化されています。学習環境は現代と比べることもできませんが、おそらくこの時代の学生は現代の学生よりも日々が充実していたのではないかなぁと思い、自分自身もこの時代に生まれたかったとこの映画を見るたびに思います。よく勉強するけどよく遊んでいるんですよね。丸ごとのキャベツに塩をかけて葉っぱをかじりながら哲学論を戦わせたり。季節感という点ではさほど季節描写のある映画ではありませんでしたが、卒業後と在学中の間に明らかな一線があることが感じられました。

 私の学生時代、「アイスクリーム買いに行くけど他に欲しい人〜」とか「もう暑いから野球でもしようか」(余計に暑いってば)、みたいな学生だから許されるいい加減さのようなもの、季節の移ろいと共に出会い、試験、卒業と時間が流れる、そんな素朴な学生生活が研究活動にふさわしい環境が整えられるにつれてなくなっていくようで、せっかく学生たちに与えられた最後のモラトリアムな時間、ある程度のわがままやいい加減さが許される時間が企業と有意差つかない環境の中で季節感もなく流れていくことに対して、なんだか寂しいような思いがします。

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